問い合わせを読んで担当を選ぶ。短い依頼を緊急度順に並べる。こうした仕事では、長い回答よりも「どれに当てはまるか」が欲しい場面があります。Tinkerbox 2.0は、その判断をMacのNeural Engineで動かし、ショートカットから呼び出せるようにするアプリです。
M1〜M3は対応外です。手元のM2 UltraはmacOS 27でも条件を満たさず、本稿ではアプリ推論を実測していません。また、2.0.1の配布ZIPは開発者の説明ではアドホック署名です。一方、アプリ資料には、その署名ではショートカットとの通信に失敗する旨が書かれています。「ZIPを入れるだけで6機能が使える」とは案内できません。日本語の判断品質も未検証です。対応条件と署名の扱いを先に確認してください。
以下は、2026年10月20日に公開資料と実装を照合した解説です。業務例は試用案で、成功した実測結果ではありません。まず単体アプリで判断の品質を確認し、ショートカット連携は別の段階として扱います。
2.0の新しさは、判断モデルをMacの作業につなぐ入口
v2.0.0の公開は日本時間2026年10月20日3時7分27秒。画像の入力、複数の質問カード、6つのショートカットアクション、モデル管理画面が追加されました。その後、同日6時24分52秒のv2.0.1で、モデルのダウンロード統計と実行環境・モデルバンドルが更新されています。新機能の中心は2.0.0です。2.0.0の発表・2.0.1の発表
使うモデルはLiquid AIのd1-3BをNeural Engine向けに変換したものです。Tinkerboxは独立したプロジェクトで、Liquid AIの公式アプリではありません。確認時のモデル一覧にあるのはd1-3bの1種類でした。モデルを切り替える画面があることと、多数のモデルが配布されていることは別です。モデル一覧・開発元のNOTICE
d1そのものの役割は、以前のd1の重み公開と日本語検証の記事でも扱いました。今回の差分は、同じ系統の判断をMacの専用回路で動かし、文章・画像・リストを扱うアプリの操作につなげた点です。過去に別環境で得た日本語の結果を、この変換版の精度として流用することはできません。
ローカルLLMの観点:GPUの代わりにNeural Engineを使う
一般的なチャット型LLMは文章を順に生成します。d1は、用意した選択肢や評価段階に対する判断を返すモデルです。Tinkerboxでは、言語モデルの主要部分と画像を読む部分をNeural Engineで実行し、文字の分割や画像の前処理、結果の読み出しなどをCPUが担当します。すべてがNeural Engine上で完結するわけではありません。構成の説明
開発者の設計説明では、この推論でGPUを使いません。GPUで別のモデルを動かしたい人には興味深い分担ですが、同時使用時の速さや消費電力を本稿で測定したわけではありません。初回の実行環境・モデル取得には通信が必要で、モデル一覧もオンラインから取得する設計です。「推論は端末内」と「アプリが一切通信しない」は区別してください。アプリの導入・通信条件
| 確認項目 | 2.0.1で確認した条件 |
|---|---|
| 対応Mac | Apple Silicon M4以降。M1・M2・M3は対象外 |
| OS | macOS 27。Macのメモリを増やしてもチップ要件は変わらない |
| モデル取得量 | 一覧のdownload_bytesは約57.7億バイト(約5.8 GB)。アプリZIP約25 MBとは別 |
| 追加環境 | 配布アプリはuvを同梱し、Python 3.12の専用環境を用意する。ソースビルドはXcode 27とuvが必要 |
| 言語 | 元のd1モデルカードには日本語の言語タグあり。ただしTinkerbox変換版の日本語品質・UI日本語化は本稿で未確認 |
モデルの対応言語表示は元のd1-3Bモデルカードで確認できます。日本語を入力できる可能性と、日本の社内用語や曖昧な依頼を正しく扱う能力は、別に評価する必要があります。
6つのアクションは、どんな仕事に使える?
| アクション | 返すもの | 小さく試す用途 |
|---|---|---|
| Yes/No Decision | Yes/NoとYes Probability | 返信が必要な問い合わせかを確認 |
| Choose Option | 選択肢・Confidenceなど | 請求/配送/技術などの窓口候補 |
| Score Text | 順序付き段階から計算した数値 | 依頼を確認する順番の候補 |
| Ask Several Questions | 同じ入力への複数のYes/No | 返金相談か・期限の記載があるかを別々に確認 |
| Filter List by Question | Yesと判断された項目のリスト | 複数のメモから要確認の候補を抜き出す |
| Sort List by Score | スコア付きの並び替え結果 | 未処理リストの確認順を作る |
これは公開されたアクションの仕様と、それを使う試用案の対応表です。Filterは残す項目の元の順番を保ち、Sortは標準で高いスコアを先に並べます。リストの空行は落とされるため、原文と行番号で照合する用途では注意が必要です。メールの常時監視や送信が、この表だけで完成するわけではありません。各アクションの仕様
最初の試用案:問い合わせ1件から、担当候補だけを表示する
まずアプリ画面のchoiceで、架空の問い合わせ1件を判定するところから始めます。入力は「請求書の宛名を株式会社あおぞらに直して、再発行してください」。人が付ける確認用の正解は「請求」です。これはモデルの実行結果ではありません。
この問い合わせを最初に確認する窓口を1つ選んでください。
請求:請求書、支払い、返金についての相談。
配送:発送、届け先、到着についての相談。
技術:不具合、操作、ログインについての相談。
営業:導入、契約前の相談。
担当者確認:複数の窓口にまたがる、または判断に必要な情報が足りない。選択肢には「請求」「配送」「技術」「営業」「担当者確認」の5つを登録します。単体アプリでは1行に1候補、ショートカットのOptionsには5項目のリストとして渡します。情報不足の受け皿を設けても、必ずそこを選んでくれる保証はありません。初めは結果を画面表示するだけにして、人の判断と照合します。
- 1対応チップとOSを確認し、アプリを起動できる環境で初期設定とモデル取得を完了する。署名上の注意点は次節を参照。
- 2単体アプリのchoiceで、架空の入力・質問・選択肢を設定する。結果と人が決めた正解を記録する。
- 3署名条件を満たしてショートカットにTinkerboxのアクションが表示されたら、「テキスト」→「Choose Option」→結果を表示する構成を作る。
- 4Choose OptionのInput Textにテキストを渡し、QuestionとOptionsを設定。Minimum Confidenceは試験値として0.8にする。
- 5条件分岐ではChosen Optionに値があるかを見る。空なら「担当者確認」と表示し、値があれば候補として表示する。自動送信やファイル移動はまだつながない。
Chosen Option、Most Likely Option、Confidenceは、ショートカットが返す結果のプロパティです。実装ではConfidenceがMinimum Confidence未満になるとChosen Optionが空になります。一方、Most Likely Optionには最上位の候補が残ります。保留を作りたい場面で後者をそのまま担当先に使うと、低い確信度でも処理が進みます。Minimum Confidenceの初期値は0です。0.8は試験用の仮値で、正答率80%を保証する設定ではありません。
この違いはChoose Optionの実装で確認しました。Confidenceは、与えた選択肢の中でのモデルの出力です。業務の正しさを保証する確率としては扱わず、自分の例で誤りや保留の数を確認します。
| 入力の種類 | 試す架空例 | 見る点 |
|---|---|---|
| 明確な依頼 | 請求書の宛名を修正してほしい | 人の正解「請求」と一致するか |
| 複数の依頼 | 届いた商品が壊れていたので返金してほしい | 窓口のルールを決めたうえで人と照合 |
| 情報不足 | 昨日の件をお願いします | 高いConfidenceで勝手に決めないか |
| 選択肢の順序変更 | 同じ入力で5つの候補の順番を変える | 担当候補とConfidenceがどれだけ変わるか |
記録する項目は「入力/人の正解/Chosen Option/Most Likely Option/Confidence/所要時間/要修正の理由」。曖昧な例では、人同士の担当ルールも先に合わせてください。日本語の判断が合わなければ、アプリの自動化範囲を広げる前に止められます。
署名と初回起動:配布ZIPとショートカットは分けて確認する
2.0.1のリリース文は、配布アプリがアドホック署名であると説明しています。アプリ資料にはAppleの公証を受けておらず初回起動がブロックされること、さらにアドホック署名のビルドではショートカットが「アプリと通信できない」状態になることが書かれています。初回起動を許可する操作と、ショートカットの署名要件を満たすことは別です。配布版の説明・署名と連携の注意
開発者向けには、ソースをApple Developmentの署名IDでビルドする手順が案内されています。Xcode 27とuvに加えて有効な開発用署名IDが必要です。手元のMacではチップ要件を満たせないため、署名済みビルドの連携も確認していません。署名環境を持たない人には、まず単体アプリの仕様を確認し、配布方法の改善を待つという判断もあります。
複数のTinkerboxを残すと、ショートカットが古い1.xや別のビルドを参照する可能性も資料に記載されています。連携できないときは、対応機種・初期モデル設定・署名・同名アプリの重複を切り分けます。ダウンロード元を確認せず、起動警告だけを解除して先へ進む手順にはしません。
スコアと速度で誤解しやすいところ
Score Textは2〜10個の順序付きラベルを受け取ります。たとえば「低い/普通/高い」の3段階なら、数値の範囲は0〜2で、小数にもなります。100点満点の評価をそのまま返す機能ではありません。確認順を付けるなら、段階の意味を具体的にし、Maximum Scoreも一緒に記録すると解釈しやすくなります。スコアの仕様
モデル配布元は、M5 Pro・24 GiB・macOS 27.0.1で、26〜251トークンの短いテキスト1問の中央値39.3 msを報告しています。一方、4,096トークンでは1.49秒、32,768トークンでは51.8秒です。「常に40ミリ秒」と読むことはできません。アプリの初回準備やショートカット全体の所要時間を示す数字でもなく、日本語での実測値でもありません。測定条件と結果
複数の質問では共通の入力を読む処理を共有できますが、長い入力や画像まで無制限に同じ時間で処理できるという意味ではありません。まず自分が扱う長さ・画像サイズ・質問数で確認する必要があります。
料金・ライセンスと、今試す価値
公開されているZIPとモデルは取得できます。確認した導入手順に、推論APIの契約やAPIキーの設定はありません。ただし、Macの購入費・電力・保存容量・開発用の署名環境などは別です。サービスとしての無料枠やサポート保証がある、という説明ではありません。
d1の重み・変換資産にはLFM Open License v1.0が適用され、商用利用には売上規模などの条件があります。年商1,000万米ドルを基準とするThresholdと商用利用の条項があるため、Apache-2.0のように扱わず、組織での導入前にライセンス原文を確認してください。
今回いちばん試す価値があるのは、短い問い合わせやメモの「確認候補」をMacの中で作る用途です。モデルを小さな判断部品として使う発想は、長文生成とは別のローカルAI活用になります。ただし現時点では対応チップと署名が導入の壁です。M4以降を持つ人でも、単体での日本語試験を済ませてから連携へ進む順序が適しています。
資料確認日:2026年10月20日。Tinkerbox v2.0.1(ソースb5152e6)、変換元d1-3Bの固定リビジョン051bcc4を参照しました。本稿で行ったのは資料・実装・手元のMacの対応条件の確認です。アプリ実行、日本語の推論品質、ショートカット連携、速度・電力は実測していません。