グラフはデータを分かりやすくする道具です。ところが同じデータでも、描き方しだいで印象は正反対になります。しかも、嘘の数字は1つも使っていないのに、です。
この回では、よく使われる手口を実際に描いて確かめます。見破れるようになると同時に、自分が無意識にやってしまうのも防げます。
1. 軸を切り詰める
最もよく使われるのが です。縦軸を 0 から始めずに、途中から描く。これだけで、わずかな差が大きな差に見えます。
import matplotlibmatplotlib.rcParams["font.family"] = "Hiragino Sans"matplotlib.rcParams["axes.unicode_minus"] = Falseimport matplotlib.pyplot as plt
# まったく同じデータ(支持率が 48% から 51% へ)labels = ["1月", "2月", "3月", "4月"]values = [48, 49, 50, 51]
fig, (ax1, ax2) = plt.subplots(1, 2, figsize=(10, 4))
# 左: 0 から描く(正直な描き方)ax1.bar(labels, values, color="steelblue")ax1.set_ylim(0, 100)ax1.set_title("0 から描いた場合")
# 右: 47 から描く(差を大きく見せる)ax2.bar(labels, values, color="indianred")ax2.set_ylim(47, 52)ax2.set_title("47 から描いた場合")
plt.tight_layout()plt.show()左は「ほとんど変わっていない」ように見え、右は「急上昇している」ように見えます。データはまったく同じです。3ポイントの差を、どう見せるかだけが違います。
軸を 0 から始めないこと自体は、必ずしも不正ではありません。体温、株価、偏差値のように 0 に意味がない値では、0 から描くと変化がまったく見えません。問題なのは、小さな差を大きく見せる意図で使う場合です。だから、見る側は目盛りを確認するしかありません。
2. 面積の錯覚
次によく使われるのが、長さで表すべきものを面積で表す手口です。
たとえば「売上が2倍になった」ことを、縦横それぞれ2倍の絵で表すとどうなるでしょうか。縦2倍・横2倍なので、面積は4倍になります。見る人は面積で印象を受け取るため、2倍が4倍に見えます。
| 表し方 | 値が2倍のとき | 受ける印象 |
|---|---|---|
| 棒の長さ | 長さが2倍 | 2倍(正しい) |
| 絵の縦横を2倍 | 面積は4倍 | 4倍に感じる |
| 立体の縦横高さを2倍 | 体積は8倍 | 8倍に感じる |
3行目は特に強力です。立体の円グラフや棒グラフは、手前の項目が大きく見えるという別の問題もあります。読み取りにくくするだけなので、立体にする理由はほとんどありません。見栄えを良くしたいという動機で使われることが多いのですが、見栄えと分かりやすさは別です。装飾を足すほど、読み取れる情報は減っていきます。
3. 都合の良い期間を切り取る
3つ目は、見せる期間を選ぶというものです。長い期間で見れば横ばいでも、上がっている部分だけを切り出せば上昇に見えます。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(1)
# 24か月ぶんのデータ。全体としては横ばい(上下に揺れているだけ)months = np.arange(24)values = 100 + rng.normal(0, 5, 24)
# 全期間で見た変化print(f"全24か月: 最初 {values[0]:.1f} → 最後 {values[-1]:.1f}")
# 一番上がって見える3か月を探すbest = max(range(len(values) - 3), key=lambda i: values[i + 3] - values[i])print(f"都合の良い3か月({best}〜{best+3}か月目): " f"{values[best]:.1f} → {values[best+3]:.1f} " f"(+{values[best+3] - values[best]:.1f})")
# 一番下がって見える3か月worst = min(range(len(values) - 3), key=lambda i: values[i + 3] - values[i])print(f"都合の良い3か月({worst}〜{worst+3}か月目): " f"{values[worst]:.1f} → {values[worst+3]:.1f} " f"({values[worst+3] - values[worst]:.1f})")まったく同じデータから、「増えている」とも「減っている」とも言えてしまいます。ただ揺れているだけなのに、切り取り方で正反対の主張が作れる。これは EP.03 で学んだ「散らばり」がある以上、避けられない性質です。そして前回学んだ と同じで、どこを取り出すかが結論を決めてしまうという構造になっています。
見破り方は簡単で、「なぜその期間なのか」と問うことです。区切りの良い期間(1年、5年)でなく、中途半端な期間が選ばれていたら注意してください。
4. その他のよくある手口
細かいものをまとめて挙げます。どれも数字自体は正しいのに、印象を操作できるという共通点があります。
| 手口 | 何が起きるか | 確認すること |
|---|---|---|
| 割合と実数を使い分ける | 都合の良いほうを見せる | もう片方はどうなっているか |
| 目盛りの間隔を変える | 途中で幅が変わっている | 横軸が等間隔か |
| 比べる相手を選ぶ | 最も差が出る相手と比べる | 他と比べたらどうか |
| 平均だけを見せる | 散らばりが隠れる | 分布はどうなっているか |
| 軸に単位がない | 何の数字か分からない | そもそも何を表しているか |
1行目は日常でもよく見ます。「事故が50%増加」と聞くと大変なことに思えますが、2件から3件かもしれません。逆に「わずか0.1%」と言われても、1億人の0.1%は10万人です。割合と実数の両方を確認してください。
4行目の「平均だけを見せる」も頻出します。EP.02 で学んだとおり、平均は少数の極端な値に引っ張られます。平均年収が高い会社でも、一部の人が突出しているだけかもしれません。中央値はどうか、分布はどうかを確認する癖をつけてください。
5. 自分が作るときの心得
見破る側だけでなく、自分が作る側になったときも大事です。悪意がなくても、無意識にやってしまうことがあります。
- 1軸を 0 から始めない場合は、その理由を言えるようにする
- 2期間は区切りの良いところで取る — 都合で選ばない
- 3立体にしない — 読みにくくなるだけ
- 4割合を見せるときは実数も添える — その逆も同じ
- 5別の描き方でも同じ結論になるか確かめる — なるなら安心
5番目が良い自己チェックになります。描き方を変えたら結論が変わるなら、その結論はグラフの描き方に依存しているということです。データが示していることではありません。
6. まとめ
グラフの嘘は、嘘の数字を使いません。だからこそ見破りにくい。ただし、確認すべき点は多くありません。
- 1縦軸の目盛りを見る — 0 から始まっているか
- 2期間と対象を見る — なぜその範囲なのか
- 3割合か実数か — もう片方はどうなっているか
- 4比べる相手 — 他と比べたらどうか
この4つを習慣にするだけで、よくある手口のほとんどに気づけます。グラフを見たら、まず軸を見る。それが第一歩です。慣れると数秒で確認できるようになり、その一瞬で誤解を1つ減らせます。次回は、直感が外れやすい確率の話を扱います。
同じデータでも描き方で印象は正反対になる。最頻出は 軸の切り詰め(ただし常に不正とは限らない)。面積や立体は錯覚を生む。期間の切り取りは、揺れがある限り必ず可能。見破るには軸・期間・割合と実数・比べる相手の4点を確認する。作る側では、描き方を変えても同じ結論になるかを確かめてください。
この記事の感想を教えてください
あなたの 1 クリックで、本当にこの記事は更新されます。「もっと詳しく」「続編希望」が一定数集まった記事は、 ふくふくが 実際に内容を拡充したり続編記事を公開 します。 送信したリアクションはお使いのブラウザに記録され、再カウントされません。