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EP.39Open Data 13分公開: 2026-09-01

雲を透過して見る ── レーダー衛星データ入門

光では見えないときに見える観測方式があります。雲があっても夜間でも観測できる代わりに、画像の読み方がまったく違う。災害時に効く道具として整理します。

#オープンデータ#衛星#SAR#防災
執筆 / 監修
松尾 亮合同会社ふくふく 代表社員

データ基盤・データパイプライン構築 / BI / 生成 AI 活用支援を専門とするエンジニア (28 年)。 本記事は AI 利用ポリシーに基づき、生成 AI の補助で執筆 → 人間が監修・編集して公開しています。

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EP.38 で扱ったとおり、雲は衛星データ利用の最大の障害です。期間合成で埋められる場面もありますが、「いま、この場所を見たい」という要求には応えられません。

そこで ── 電波を使う観測方式 ── の出番になります。この回は、その特徴と使いどころを整理します。

1. 何が違うのか

根本的な違いは、自ら電波を出して、その反射を捉えるという点です。太陽光の反射を捉える方式とは、前提が変わります。

光学とレーダーの違い
項目光学(EP.36-38)レーダー
光源太陽自分で照射する
遮られる透過する
夜間使えない使える
見え方写真に近い独特(明るさの意味が違う)
波長ごとの値色という概念がない
読み解き直感的慣れが要る

2行目と3行目が決定的な利点です。天候と時刻に左右されない。定期的に、確実に観測できます。

一方、4行目から6行目が難点です。写真のようには見えません。慣れないうちは、何が写っているのか判断できないことがあります。

2. 明るさの意味

レーダーの画像で明るい・暗いが何を意味するかを、押さえておく必要があります。電波がどう跳ね返るかで決まります。

レーダー画像での見え方
対象見え方理由
滑らかな水面非常に暗い電波が反対側へ跳ね、戻ってこない
建物・構造物非常に明るい壁と地面で二重に反射して強く戻る
森林中程度枝葉で乱反射する
裸地・農地やや暗い比較的滑らか
荒れた水面明るくなる風で波立つと反射が変わる
斜面向きで大きく変わる手前向きは明るく、奥向きは暗い

1行目と2行目の対比が、実務で最も使えます。水は暗く、建物は明るい。この性質から、浸水した範囲を見つけることができます。

水面が常に暗いわけではない

5行目に注意してください。風が強くて波立っている水面は、暗くなりません。「暗い=水」という単純な判定は、条件によって外れます。風の状況も考慮する必要があります。

6行目も山地では効いてきます。同じ地表でも、斜面の向きによって明るさが変わります。山間部の解析では、この影響を補正する処理が要ります。

3. 浸水範囲を見つける

最も実用的な使い方が、災害時の浸水範囲の把握です。原理は単純で、平常時は暗くなかった場所が暗くなったところを探します。

平常時との比較で、浸水した可能性のある範囲を出す
Python
import numpy as np

def flood_candidate(before_db, after_db,                    water_threshold=-15.0, drop_threshold=3.0):    """平常時と災害後を比べて、浸水の候補を出す。
    *_db: 後方散乱の強さ(デシベル)。水面は小さい値になる。    water_threshold: これより小さければ水面らしいとみなす    drop_threshold: 平常時からこれ以上下がったら変化とみなす    """    # 災害後に水面らしい値になっている    looks_like_water = after_db < water_threshold
    # かつ、平常時からはっきり下がっている    dropped = (before_db - after_db) > drop_threshold
    # 平常時から水域だった場所は除く(川や湖)    was_water = before_db < water_threshold
    candidate = looks_like_water & dropped & ~was_water
    return {        "候補": candidate,        "候補の画素数": int(candidate.sum()),        "平常時からの水域": int(was_water.sum()),    }

# 閾値は使うデータと地域によって調整が要る。# 平常時のデータで、既知の水域がどの値になるかを先に確認しておく。

平常時から水域だった場所を除くのが要点です。川や湖はもともと暗いので、除外しないと全部が浸水候補になります。

閾値は使うデータと地域で調整が要ります。ここに書いた値をそのまま使わないでください。平常時のデータで、既知の水域がどの値になるかを先に確認するのが正しい手順です。

建物のある場所は判定が難しい

市街地が浸水しても、建物からの強い反射が残るため、単純な閾値では検出できないことがあります。田畑や平地では有効ですが、市街地では過小に評価される傾向があります。この限界を理解したうえで使ってください。

4. その他の使いどころ

浸水以外にも、光学では難しい用途があります。

  • 定期的な観測が必要な監視 — 天候に左右されず、欠測が少ない
  • 夜間の状況把握 — 時刻を選ばない
  • 地表の微小な変動の検出 — 専門的だが、地盤の変動などに使われる
  • 船舶の検出 — 海面が暗く、船が明るいので対比が出る
  • 土地の状態の変化 — 表面の粗さの変化を捉える

1番目が地味に重要です。欠測が少ないというのは、時系列で追う用途では大きな利点になります。光学データは雲で歯抜けになりますが、レーダーなら規則正しく観測が並びます。EP.38 で扱った が不要になる、という言い方もできます。時点が明確なまま追えるのは大きな利点です。

3番目は高度な手法で、この記事の範囲を超えます。ただしそういうことができると知っておくと、必要になったときに調べられます。

5. 使う前に確認すること

実際に使う前に、確認しておく項目があります。データの性質が光学とかなり違うためです。

  1. 1処理の段階 — 生に近いものと、地図に合わせて補正済みのものがある
  2. 2単位 — そのままの値か、デシベルに変換済みか
  3. 3観測の向き — 同じ場所でも、向きが違うと比較できない
  4. 4空間の解像度 — 用途に足りるか
  5. 5観測の頻度 — 何日おきに同じ場所が観測されるか

3番目が特に重要です。衛星が同じ場所を、別の向きから観測することがあります。向きが違うと斜面の見え方が変わるため、そのまま比較すると誤検出になります。同じ向きの観測同士で比べるのが原則です。

1番目も確認してください。地図に合わせて補正済みのデータでないと、EP.35 で扱った地図データとの重ね合わせができません。用途によって必要な段階が違います。次回扱う の話とも関わりますが、重ねる相手のデータの性質も併せて確認しておく必要があります。

6. 光学との使い分け

最後に、どちらを使うかの判断を整理します。併用が基本です。

光学とレーダーの使い分け
状況選択理由
晴れていて、植生や土地被覆を見たい光学解釈が直感的(EP.36)
雲がある / 夜間レーダー光学は使えない
災害直後レーダー天候が悪いことが多い
浸水範囲を知りたいレーダー水面の対比が明確
定期的に欠測なく追いたいレーダー雲で歯抜けにならない
判断材料として確実性が要る両方互いに補完する

最下行が実務的な結論です。レーダーで候補を出し、晴れた日の光学で確認する。あるいはその逆。片方だけで判断せず、両方で確かめるほうが、誤りが減ります。

そして EP.37 でも書いたとおり、衛星データだけで結論を出さない。現地の情報、他のデータとの突き合わせが必要です。候補を絞る道具として使うのが、最も実務に合った位置づけです。

ここまでのまとめ

自ら電波を出すため、雲があっても夜間でも観測できる。ただし写真のようには見えず、明るさの意味が違う(水は暗く、建物は明るい)。この対比から浸水範囲を捉えられるが、風で波立つと水面が暗くならない市街地では過小評価という限界がある。観測の向きが違うと比較できない点に注意。そして光学との併用が基本です。

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