ふくふくHukuhuku Inc.
EP.36Open Data 17分公開: 2026-09-01

衛星オープンデータ入門:無償で手に入る「地球の測定値」で何が分かるか

衛星データは遠い世界の話ではありません。無償で全世界を数日おきに観測したデータが公開されています。何が取れるのか、写真とどう違うのか、実際に指標を計算するところまで体験します。

#衛星データ#リモートセンシング#Sentinel-2#Landsat#オープンデータ
執筆 / 監修
松尾 亮合同会社ふくふく 代表社員

データ基盤・データパイプライン構築 / BI / 生成 AI 活用支援を専門とするエンジニア (28 年)。 本記事は AI 利用ポリシーに基づき、生成 AI の補助で執筆 → 人間が監修・編集して公開しています。

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衛星データと聞くと、研究機関か大企業が扱うものという印象があるかもしれません。実際には、全世界を数日おきに観測したデータが無償で公開されていて、誰でも取得できます。この記事では、何が取れるのかを一望したうえで、写真との違いを押さえ、実際に指標を計算するところまでを体験します。

出典と時点について

執筆時点(2026 年 9 月)の情報です。データの配布経路は再編されることがあるため、実際に取得する際は提供元の最新ドキュメントを確認してください。欧州の Sentinel シリーズと米国の Landsat シリーズは、Copernicus Data Space Ecosystem から無償で取得できます(Landsat は 5 / 7 / 8 が同所で提供)。解像度や観測間隔の数値は代表的な目安として書いており、バンドや条件で変わります

1. 「衛星データは遠い」という誤解

衛星データが縁遠く感じられる理由は、たぶん3つあります。入手が難しそう、扱いが専門的そう、そして何に使えるか分からない。前の2つは、この 10 年でかなり解消しました。無償公開が進み、ブラウザ上で範囲と期間を指定して探せるようになっています。

残っているのは3つ目です。「何に使えるか分からない」。これは技術の問題ではなく、取れるものの一覧を見たことがないという問題です。だからこの記事は、まずカタログから始めます。

2. 何が取れるのか

衛星から得られるのは「上空から撮った絵」ではなく、地表が返してきた電磁波の測定値です。そこから導ける情報は、想像より広い範囲に及びます。

いずれも無償の観測データから導ける代表例
知りたいこと見ているもの身近な使い道の例
植物の元気さ赤色光と近赤外の反射の差農地の生育ムラ、緑地の増減、街路樹の衰弱
土地が何に使われているか波長ごとの反射パターン市街化の進行、耕作放棄の推定、開発前後の比較
水の広がり水が特定波長を強く吸収する性質冠水範囲の把握、ため池や河川の増減
地表の温度熱赤外の放射都市の暑さの分布、工場の稼働の推測
夜間の明るさ夜間光の観測経済活動の粗い代理指標、停電範囲
地面の上下動レーダーの位相差地盤沈下、インフラの変位
雲があっても地表を見るレーダー(マイクロ波)梅雨・台風期の被災状況把握
変化そのもの同じ場所の時系列比較「いつ変わったか」の特定

最後の行が実は一番強いと思っています。1 時点の画像から何かを判定するのは難しくても、同じ場所を数年ぶん並べて「いつ変わったか」を出すのは比較的容易で、しかも業務的な価値が高い。過去に遡って観測が存在するというのは、他のデータソースにない特徴です。

3. 写真ではなく「測定値」である

衛星データを理解する鍵は、 が波長ごとの測定であることです。カメラが赤・緑・青の3つで色を作るのに対し、観測衛星はそれ以外の波長も別々に測ります。この「人の目に見えない帯域」が情報量の源です。

  • 可視光(赤・緑・青): 人が見た目で理解できる画像を作る帯域
  • 近赤外: 植物が強く反射する。植生の判定に決定的
  • 短波長赤外: 水分や鉱物に反応する。乾燥・焼失域の判別
  • 熱赤外: 温度そのものを測る
  • マイクロ波(レーダー): 雲を透過する。夜でも観測できる
「見えないものが数値になる」が核心

植物は近赤外を強く反射しますが、人の目にはその差が見えません。しかし赤と近赤外の測定値を引き算すれば、緑の濃さが数字として出ます。これが衛星データの面白さで、「様々なデータが取れる」と言われる理由の中身です。次章で実際に計算します。

4. 実際に計算してみる

代表的な指標が です。式は単純で、(近赤外 − 赤) ÷ (近赤外 + 赤)。値域は -1 〜 1 で、植物が多いほど大きくなります。実際の画像は数千×数千の配列ですが、ここでは 3×3 の小さなタイルで挙動を確かめます。

NDVI を計算して土地被覆を分ける(numpy のみで動く)
Python
import numpy as np
# 赤(B04) と 近赤外(B08) の反射率を想定した 3x3 タイル# 左列=市街地、中央列=草地、右列=樹林 のイメージred = np.array([    [0.22, 0.10, 0.04],    [0.24, 0.09, 0.03],    [0.21, 0.11, 0.05],])nir = np.array([    [0.26, 0.28, 0.42],    [0.25, 0.26, 0.45],    [0.27, 0.29, 0.40],])
# NDVI = (NIR - RED) / (NIR + RED)。値域は -1 〜 1ndvi = (nir - red) / (nir + red)
np.set_printoptions(precision=2, suppress=True)print("NDVI:")print(ndvi)
# しきい値で土地被覆をざっくり分ける(実務ではこの境界を現地確認で調整する)labels = np.select(    [ndvi < 0.2, ndvi < 0.5],    ["市街地・裸地", "草地・農地"],    default="樹林",)print("\n判定:")for row in labels:    print("  " + " | ".join(f"{v:<12}" for v in row))
print(f"\n列ごとの平均NDVI: {ndvi.mean(axis=0).round(2)}")

引き算と割り算だけで、肉眼では分からない土地の性質が分かれます。実際の解析も、根っこはこれと同じことを大きな配列に対してやっているだけです。難しさは数式ではなく、しきい値をどこに置くかその妥当性をどう確かめるかにあります。

5. 解像度・観測間隔・入手性のトレードオフ

「もっと細かく見たい」は自然な要求ですが、細かさは他の何かと引き換えです。ここを理解しないまま探すと、要件に合わないデータを延々と探すことになります。

細かさ(空間解像度)観測の頻度費用
代表的な無償データ10m 前後(バンドによる)数日おき無償
中解像度の無償データ30m 前後半月おき程度無償
商用の高解像度1m 未満のものもある発注ベース有償

まず無償で足りるかを確かめるのが定石です。「建物1棟を識別したい」なら無償データでは足りませんが、「この地区の緑地がこの5年でどう変わったか」なら十分すぎるほど足ります。そして後者のような時間変化の分析こそ、無償データの独壇場です。過去の観測が蓄積されているからです。

6. 探し方と取り方

提供元ごとにバラバラだった検索方法を揃えたのが です。場所・期間・雲量といった条件で機械的に探せます。エンドポイントは提供元のドキュメントで確認してください。

STAC で「範囲・期間・雲量」を指定して探す(エンドポイントは提供元の最新ドキュメントを参照)
Bash
STAC_ENDPOINT="<提供元のSTAC検索エンドポイント>"
curl -s -X POST "$STAC_ENDPOINT/search" \  -H "Content-Type: application/json" \  -d '{    "collections": ["sentinel-2-l2a"],    "bbox": [139.6, 35.6, 139.8, 35.8],    "datetime": "2026-06-01T00:00:00Z/2026-08-31T23:59:59Z",    "query": { "eo:cloud_cover": { "lt": 10 } },    "limit": 5  }'
# ポイント#  - bbox     (西, 南, 東, 北) の順。OSM の Overpass とは順序が違うので注意#  - datetime 期間はスラッシュ区切りで範囲指定できる#  - cloud_cover 雲量で絞る。これを付けないと使えない画像ばかり返る
全部ダウンロードしない

1 シーンが数百 MB〜GB になることは珍しくありません。 形式で提供されているデータなら、必要な範囲・必要な解像度だけを読み出せます。提供元によってはクラウド側で切り出しまで済ませる仕組みもあるので、手元に落とす前に「部分取得できないか」を確認してください。ここを知っているかどうかで作業時間が桁で変わります。

7. 身近な使い道

立場やれること必要なデータ
自治体・地域緑地の増減、耕作放棄の把握、冠水範囲の記録無償の中〜高頻度データ
農業圃場ごとの生育ムラ、収穫時期の見極め の時系列
不動産・小売周辺の開発状況、市街化の進行数年分の土地被覆比較
インフラ地盤変位の監視レーダーの時系列
個人・学習自分の住む街の 10 年前と今を比べる無償データだけで完結

最後の行を強く推します。自分がよく知っている場所を、知っている時期で見る。これが最も学習効率が高い入り方です。結果が直感と合うかどうかを自分で判定できるので、処理を間違えたときにすぐ気づけます

8. 落とし穴

  • 雲を考慮しない: 可視光・近赤外は雲を透過しない。雲量で絞らないと使えない画像ばかり集まる
  • 解像度の期待値が高すぎる: 無償データで建物1棟は識別できない。目的から必要な細かさを決める
  • を揃えない: 他の地理データと重ねるとずれる。しかも静かにずれる
  • しきい値を借り物で使う: 指標の境界は地域と季節で変わる。現地が分かる場所で調整する
  • 1時点で判断する: 衛星データの強みは時系列。1枚だけ見て結論を出さない
  • 季節を無視して比較する: 6月と12月の緑を比べても意味がない。同じ時期同士で比べる
  • 全シーンをダウンロードする: 容量で破綻する。部分取得を先に調べる
  • 利用条件を確認しない: 無償でも出典表示などの条件が付く。提供元の規約を読む

9. ふくふくの進め方

衛星データのご相談で最初にやるのは、「それは本当に衛星でないと分からないのか」の確認です。地上のセンサーや公的統計で足りることも多い。そのうえで、衛星が効くと判断した場合は、知っている場所での検証から始めて、しきい値を自分たちの土地で調整するという順序を取っています。借り物の基準をそのまま当てると、まず合いません。

10. ここまでのまとめ

  • 衛星データは無償で手に入る。障壁は入手ではなく「何に使うか」の側にある
  • 写真ではなく波長ごとの測定値。だから肉眼で見えないものが数値になる
  • は引き算と割り算だけ。難しいのは式ではなく、しきい値とその検証
  • 細かさと頻度と費用はトレードオフ。まず無償で足りるか確かめる
  • 強みは時系列。「いつ変わったか」は他のデータソースでは出しにくい
  • で場所・期間・雲量から探す なら必要な範囲だけ読める
  • 始め方は「知っている場所を、知っている季節で」。正しさを自分で判定できる

衛星データが縁遠く感じられるのは、取れるものの一覧を見たことがないからだと思っています。植生・水・温度・夜間光・地盤変位。それぞれ単独では専門的でも、「自分の街の 10 年前と今を並べる」ところから入れば、扱いの感覚はすぐ掴めます。地上側の地理データについては EP.35EP.20 を併せて読むと、空から見たものと地上の属性を繋ぐ構図が見えてきます。続編では、時系列の変化検出の実装雲マスクの扱いレーダーデータ入門などを、読者リアクションに応じて随時追加していきます。

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